本のガイドブログ~貴方の気分に添える本をご紹介~

年間数百冊×年齢(アラフィフ・・・)を読破してきた不二ちゃんことワタクシが楽しい気分、泣きたい気分、感動したい気分、家族愛な気分などそれぞれに合った気分の本を独断でご紹介いたします。

おバカさん~どこまでもおバカさんな男の大きな愛に涙~

遠藤周作「おバカさん」


私が中学生の頃(かれこれ30年以上前・・・)に初めて遠藤周作さんの
小説を手に取ったのがこの「おバカさん」です。

題名からは想像できないシビアな物語です。


あらすじ


時代は戦後くらい。東京にある兄妹が住んでいます。
兄はのんびりとした日垣隆盛、妹は6歳下のしっかりものの巴絵で、
ある日兄がペンフレンドのフランス人が来日して
この家に居候すると言い出します。

しかもそのフランス人。ナポレオンの末裔だというのです。

少し期待する巴絵でしたが、現れたのは顔の長い馬面で愚鈍そうな
ガストン・ボナパルトという名の男。

日本語も片言しか話せず、純粋無垢なガストンは
あちこちで騒動を起こし兄妹を呆れさせますが
どこか憎めない男です。

ガストンはそのうち兄妹のもとを去り、
遠藤というやくざの男と知り合います。

遠藤は大学を卒業したインテリヤクザで、
やくざになったのは尊敬していた兄の仇・金井を殺すためでした。

愚直で純粋、人をとことん信じるガストンは復讐をさせまいと
遠藤を案じどこまでもついていきます。
時に蹴られ、殴られてもヘラヘラ笑って、野良犬・ナポレオンとともに。

カストンは言います。

「エンドさんひとりぽっちだからトモダチいりますね。これ私の信念。
アナタについていくこと。アナタみすてないこと。

金井殺害の絶好のチャンスをガストンに邪魔され(ガストンいつのまにか
遠藤の拳銃の弾を抜いてしまいます。その素早さ、本当はなにもの!?ってなります)
「みすてない」と憐れんでいるように言われたと感じた遠藤は激怒し
東北に飛んで行ってしまいますが、
それでもガストンはどこまでも遠藤を探し出します。

もう一人の敵、小林殺害をもくろむ遠藤ですが、返り討ちに合い
ガストンが救いますが、ガストンも深手を負い
どこかへ姿をくらますのでした。


読後感想

読んでいくとガストンは”バカ”ではなく”おバカさん”だと気づきます。
とことん人を信じるおバカさん。

作者が親交があったジョルジュ・ネラン神父をモデルに書いたそうです。

まさしくガストンは弟子に裏切られながらも信じ続けた
現代のエスキリストだと思います。

遠藤周作と言えば「深い河」や「沈黙」が有名ですが、
そこに流れる共通の信念はキリスト教です。

この話もキリストが言ったといわれる
「右の頬を殴られたら、左の頬も出せ」
といったキリストの犠牲愛が根本にあります。

殴られても蹴られても裏切られても、注ぎ続ける献身的な愛。

そんな男をバカと言えるのでしょうか?

きれいごとではなかなかできない大きな愛に感服し、
深い感動を覚えたのを思い出します。


私事ですが、ワタクシ大学のゼミで遠藤周作を専攻していました。
(ゼミの教授と知り合いで、遠藤周作さんの講義を受けることもできました)

「沈黙」「深い河」「海と毒薬」など救いのないような
重いテーマを書いている先生と思えないほどユーモアたっぷりな先生で
著名な方が亡くなったとニュースで知って涙したのは
後にも先にも遠藤周作さんでした。それほど未だに尊敬してやまない作家さんです。

ぜひ、本当の無償の愛を感じてみてください。