本のガイドブログ~貴方の気分に添える本をご紹介~

年間数百冊×年齢(アラフィフ・・・)を読破してきた不二ちゃんことワタクシが楽しい気分、泣きたい気分、感動したい気分、家族愛な気分などそれぞれに合った気分の本を独断でご紹介いたします。

半落ち~家族を失った男の愛に涙~

横山秀夫半落ち」は真実を語ることがない男の愛に涙。

たまたまですが、こちらも寺尾聡さん主演で映画化されました。

あらすじ

元警察官の主人公・梶が2日前に妻を殺したと、自首したところから物語は始まります。

梶は愛する妻がアルツハイマー病にかかり、
「自分がまともなうちに殺してくれ」という願いをかなえるため
妻を殺してしまったのです。

元警察官の自首ということで、すぐに真相はすべて自供される所謂「完落ち」になると、
当初は踏んでいましたが、
妻を殺してから自首するまでの"空白の2日間”について彼は絶対に語らず、
所謂半落ちのまま。

家宅捜査の折に「人間50年」という不思議なメモを発見します。

警察官の志木はじっくり聞きだせばよいと考えていましたが、
空白の2日間に梶が悪いイメージのある歌舞伎町に言っていたことが判明し、
警察の体面を保つために、梶に偽の供述をさせ、事件は検察に回されます。

担当となった検察官の佐瀬は、警察の供述にねつ造があることを見抜き
県警に無許可で家事の自宅を捜査しますが肝心な物証はすべて県警に持ち去られていました。

そんな折、横領の疑いで検察内で内偵を受けていた検察官の男が
置き引きで県警に逮捕されてしまいます。
検察官が県警に逮捕されるなんてあってはならないこと。

検察は梶の事件から身を引く代わりに、検察官の男が検察官内部の捜査によって
逮捕されたようにするよう取引し、梶の事件は闇に葬られました。

そんな折、偶然にも佐瀬と検察官の口論を聞いてしまった
新聞記者の中尾は新聞記者として名を上げるために
梶事件の"空白の2日間”と"ねつ造された供述書”について調べ初め、
大スクープをつかみますが、警察・検察の隠ぺいにあい、
あっけなく立ち消えになってしまいました。

そのまま裁判まで進んでしまった事件ですが、
佐瀬の同級生である弁護士の植松が人権派弁護士として名声を得るために
梶の弁護を買って出ます。
植松は梶の義姉から梶が空白の2日間に歌舞伎町に言ったことを聞き出しますが、
肝心の梶が否定したため、裁判に不利になると思い
裁判でも真実が明らかになることはありませんでした。

裁判は自身の父もアルツハイマーだったという藤林が担当することとなり、
父も梶の妻のように「自分がまともなうちに殺してくれ」と
言っていたことを知り、懲役4年という軽い刑を言い渡す。

時は流れ、事件が忘れ去られようとしていたころ定年間近の刑務官古賀は
変わった受刑者の梶の処遇に困っていましたが、
彼のもとに志木から度々連絡が入るようになり、とうとう空白の2日間の
事実を知ることになったのでした。


彼の黙秘していた2日間は歌舞伎町に彼の骨髄ドナーである青年に会いに
行っていたのです。
梶は息子を白血病で失っていた過去から、骨髄バンクに登録し
青年に移植していた過去があったのです。

黙秘していたのは、自分の中に流れる血が犯罪者と知って
青年が苦しむのを恐れたから。

そしてどんな事情であれ、妻を殺したのに後を追って自殺しなかったのは
50歳までは骨髄を移植できるため、
誰かに移植できる可能性があるまでは死なないという彼なりの決心のためでした。

読後感想

作者である横山秀夫さん自身が息子さんが骨髄移植を受け元気になったという
経験を持つため、その体験を小説にしたこのお話。

殺人は絶対にいけないけれども、亡くなった息子を覚えているうちに
殺してほしいという妻を愛おしく思う故に手にかけてしまった男の愛。

また移植した青年を亡くなった息子に重ね、見守る男の愛。

自分たちの体面ばかり考えて、真実が表に出なかった組織と
自分のことはさておき、自分の大切にしているものを守り抜く梶との
正反対の比較により、梶の大きな人間愛が浮き立った考えさせられる小説でした。

妻を殺した年が51歳だったら迷わず自殺してしまったんだろうな。

愛する家族を失った男の哀しい愛の物語でした。